カビパン男と私

HOME/横書き縦書き

カンマとスペース

「キミはじつに下らないことに興味を持つんだな」というセリフが聞こえてきた。ドラえもんの声で。

でもまあ好きなことを遠慮なく書くのが趣旨だ。自分が面白いと思ったのだから仕方がない。

お題となる文字列は "alqd de,ex,a re" だ。これが一体何かということは、さしあたり問題ではない。この文字列をどう分解するか、というのが大事な点だ。つまり、スペースとカンマの結合の強さの順番が問題になる。

結論をいうと、この文字列では、カンマのほうがスペースよりも結合力が強い。だから、

と分解するのが正しい。

ではないということである。

当然、このルールでいくと、単語の間にスペースを入れた文字列をカンマで区切ることはできなくなる。

じつは、これは辞書から引っ張ってきたもので、語の用法を示したものである。alqd というのは、aliquid の略で(これは凡例にある)、人や物の対格(目的格)みたいなものだ。de,ex,a は前置詞で、re はモノの奪格。

何が面白いのかというと、この節約した書き方が面白い。ふつう、カンマの結合力は、スペースの結合力より弱いものだ。ところが、この辞書の語法説明では、その結合力を逆転させることによって、文字数を減らすことができたのである。

もし、スペースの結合力がカンマのそれよりも強いということを変えないならば、"alqd de re, alqd ex re, alqd a re" とするか、新たにスペースよりも結合力の弱い記号を導入して "alqd de/ex/a re" などとする必要がある。alqd [de|ex|a] re のようにすると、さらにわかりやすいし、より多くの場合に対応できる。。

しかし、この辞書には "alqd de,ex,a re" なのである。スペースを含む文字列に対して or を書く場合には、

"re;in,ad alqd;dat." などとなっている。; はスペースよりも結合力が弱い。だから、こう書けば

の意味になる。

ちなみに、スペースとカンマとセミコロンの結合力の強さについて、この辞書は凡例に記していない。読者が判断する必要がある。

こうしたやり方は、どこか昔流で何やら妙な趣がある。たとえば、LaTeX の書類では、どんなライブラリを読み込めという命令が書いてある。ところが、troff の書類にはそんなものは書いていない。自分で判断するか、その文書を書いた人に尋ねなくてはならない。本文を読み込んで、必要なライブラリを出力するプログラムが作れらたりもしていた。しかしまあ、そのおかげで troff はプリアンブルなどという面倒なものはないのである。

じつは、先程から使っている例は「増補新版羅和辞典」(田中秀央著、研究社、1966)から採ってきたものである。ラテン語の字引などでは、それを引く人そのものがある程度同じ空間に属しているだろうから、カンマやスペースについての定義を本の中でしておく必要はなかったとも考えられる。

もしかすると、素気ないカンマやスペースの使い方に妙な魅力があるのは、読者が属する空間として今よりも狭いもの想定されていた「良き時代」の名残りを感じるからかなのかもしれない。

※本ページの表は、Javascript を使ってクライアント側で組んでいます(これね)。Javascript がない環境では、表が見えませんごめんなさい。

@kabipanotoko