カビパン男と私

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「ニュートン算」

先日、「ニュートン算」なる言葉を耳にした、「つるかめ算」や「旅人算」と同じで、塾で教える○○算の仲間らしい。たとえば、次のような問題だ。

「牛が草地の草を食う。20頭では8日で食いつくし、25頭では6日で食いつくす。草は毎日一定の速さで生えるとして、牛を45頭では何日で草を食いつくすか。」

手強そうなので、ちょっとズルをして、まず大人のやり方で解いてみる。

最初の文を、ごく素直に方程式で表現すると、牛が一日に食う草の量を \(x_1\)、草地の草の初期の量を \(x_2\)、草が一日に伸びる量を \(x_3\) とすると

\( \begin{eqnarray} x_1 + 8 x_2 = 20 \cdot 8 x_3 \\ x_1 + 6 x_2 = 25 \cdot 6 x_3 \end{eqnarray} \)

である。行列を使って書くなら

\( \left( \begin{array}{ccc} 1 & 8 & -160 \\ 1 & 6 & -150 \\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ x_3\\ \end{array} \right) = 0 \)

という感じ。いわゆる同次形の連立一次方程式だ。つまり、\( x_1=x_2=x_3=0 \) という自明な解を持つ。もちろん、これは草なんか生えてないし、草が伸びることもないし、牛が草を食べもしないという状況だから、考えなくていいだろう。

で、それ以外に解がどうかということを調べてみる。で、係数行列を簡約化すると

\( \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & -120 \\ 0 & 1 & -5 \\ \end{array} \right) \)

というふうになるわけで、ようするにこれは

\( \begin{eqnarray} x_1 - 120 x_3 = 0\\ x_2 - 5 x_3 =0 \end{eqnarray} \)

のことであるから、解を任意定数 \(c\) を用いて表すなら、

\( \begin{eqnarray} x_1=c\\ x_2=120c\\ x_3=5c \end{eqnarray} \)

となる。で、問題文後半を 45 頭の牛で食べつくすのに \(y\) 日かかると表現するなら

\( 120 c + 5 c y = 45 c y \)

となる(ただし \( c \ne 0 \))。\( y \) について解くと \( c \) によらず \( y=3 \) となり、答えは「3 日」である。

一体、小学生にこれをどう教えているのだろう。きっと、ナイス頓知な和算ぽいメソッドがあるんじゃろうと期待しつつ「解答」を見てみることにした。

すると、いきなり「牛 1 頭が 1 日に食べる草の量を 1 と置くと……」と書いてある。どうしてそれを「1 と置」いていいのかの説明はない。

なによそれ。悩んじゃうよ、小学生。

たしかに「牛 1 頭が 1 日に食べる草の量を 1 と置」くことにより、最初の 2 本の方程式(甲)の解を一つ(乙)得ることができる。しかし、乙は甲の十分条件であって、必要条件ではない。小学生だって、これはきっと気持ち悪い。牛 1 頭が 1 日に食べる草を定数として議論の外側に押し出しておかないといけないような気がする。

まあ、あんまり突っ込むと代数がわかってないといって怒られそうだから、このへんでやめておく。

(追記)というところまでずっと前に考えて、そのままにしておいたのを先日のこのブログに貼り付けてしまったのだが、今日(2016-6-23)ググったら、Wikipedia にまで「ニュートン算」の項目がある。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3%E7%AE%97

また、どうしてこれがニュートン算と呼ばれるかについても Arithmetica Universalis の項目( https://ja.wikipedia.org/wiki/Arithmetica_Universalis )に詳しい。

どうやらアイザック・ニュートンの講義ノートを元にして書かれた本の中に現れる例題らしい。ニュートン本人は著者に自分の名を載せるのを拒んだとか。(ニュートンに関係がないだろうなんて言ってごめんなさい。訂正します)

で、https://ja.wikipedia.org/wiki/Arithmetica_Universalis#.E3.83.8B.E3.83.A5.E3.83.BC.E3.83.88.E3.83.B3.E7.AE.97 を見てみると、この本に載っている例題というのは、牛の頭数や食べ尽す日数を未知数で表現している。その解法をざっと読むと、どうやら「比の関係」に帰結させるものらしい。

ちなみに、 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3%E7%AE%97 には、「追いつき旅人算と見て、グラフを利用して解く」やり方が載っていて、これも比に帰結させているようだ。

@kabipanotoko