カビパン男と私

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行列にまつわる妄想

文系は数学がわからぬといふ。しかし数学がわからぬのではなくて、数学の本を読んで、あらぬことを妄想するのである。勉強が進むと、妄想が理解を妨げることが増えるというに過ぎぬ。試みに、線形代数を勉強しているとき、私を襲った妄想を紹介せむ。

ここに

\( \matrix{2x + 3y = 6 \cr 4x + 5y = 14} \)

といふ連立方程式があったとする。これについて私が最初に妄想したのは

「 \( x \) と \( y \) という食材を \( 2, 3 \) というレシピによって混ぜ合わせると 6 という料理ができて、\(4, 5\) というレシピによって混ぜ合わせると 14 という料理ができる」

ということである。一方、同じことを行列で表現すると

\(\left(\matrix{2&3\cr 4&5}\right)\) \(\left(\matrix{x\cr y}\right)\) = \(\left(\matrix{6\cr 14}\right)\)

となる。ところが、こちらに関する妄想は

「\(\left(\matrix{2\cr 4}\right)\) と \(\left(\matrix{3\cr 5}\right)\) という食材(数ベクトル)を \(\left(\matrix{x\cr y}\right)\) というレシピで調理(一次結合)すると、\(\left(\matrix{6\cr 14}\right)\) という料理が出来上がる」

というものだ。

最初の妄想では、\(x,y\) が食材で \(2,3,4,5\) がレシピであるが、次の妄想では \(2,3,4,5\) が食材で \(x,y\) がレシピとなっている。初めて行列を勉強したとき、食材とレシピの交代を要求されて混乱したのを覚えている。

どうして混乱するのかというと、食材とかレシピとかいう数学で教えられないような妄想がふくらむからであって、きっとそういう妄想に取りつかれない人には無縁の混乱なのだろうと思う。

私がこの交代を受け入れられるようになったのは、ベクトルというものの定義を勉強して、それが妄想世界で市民権を得てからのことである。

@kabipanotoko