カビパン男と私

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「-x² なる数は存在しない」?

ある人に「-x² と表現される数は存在しないのではなか」と言われたとき、はじめ私は何のことなのか見当もつかなかった。たとえば、x に 2 を代入すれば、-x² の値は -4 だし、x に -3 を代入すれば -9 である。-4 も -9 も立派な数だ。そして、彼は負の数というものを知らないわけではない。

もう少し詳しく尋ねてみると、「どんな数でも(注・彼が知っているのは実数だけである)二乗すれば正の数なのだから符号がマイナスになることはない」ということだ。

これで少し事情がわかってきた。

たとえば、「カレー・ルーには 2 種類あって、甘口は赤いパッケージに入っていて、辛口は緑のパッケージに入っている」ということにしてみよう。カレー・ルーは見ただけでは甘口か辛口かわからないので、パッケージでそれがわかるように区別するわけである。

それと同じように考えてみると、たとえば「 9 には正の 9 と負の 9 があって見ただけでは区別がつかない。そこで、負の 9 である場合には - をつけることによってそれが負だと明示する」ということになるだろう。もしそう考えるならば、3² は正のほうの 9 に決まっているのだから、それに - がつくはずがない。つまり、-3² という数は存在し得ないことになる。「-x² の形で表現される数はありえない」というのは、このことの一般的な表現なのだろう。

こうしたことは数学という面から見ればたんなる誤解なのであるが、人間のものの考え方という面から見るとなかなか面白いことのように思う。

@kabipanotoko