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もし英語がプログラミング言語だったら(1)冠詞

冠詞の概略

英語では、現実世界の物や事に対応するものがオブジェクトである。関数や名前はオブジェクトではない。オブジェクトは、クラスとインスタンスである。クラスには組込みのものが多量に存在し、ユーザがこれを定義する文法は用意されていない。また、ふつうはインスタンスに名前をつけることはない。

インスタンスの作成

たとえば Python では、dog クラスのインスタンスを作成して、pochi という名前がそのインスタンスを指すようにするには次のようにやる。

pochi=dog()               # Python

英語では、これを次のように行う。

a dog                 # ENGLISH

a/an は「a/an クラス名」のように使い、インスタンスを一つ作成して、これを返す。英語は代入文を持たないので、文法レベルではユーザがインスタンスに名前をつけることができない。

a/an ではインスタンスが作成できないケースもある。ある種の属性（個別性）が欠如しているクラスから、a/an を使ってインスタンスを作成しようとすると、エラーが出る。

a water                 # エラーが出る

こうしたクラスのインスタンスを作成するには、暗黙のインスタンス作成（後述）を行うか、場合によってはクラスそのもの（後述）を用いる。

クラス名に -s/es をつけると、一度に一つのクラスから複数のインスタンスを作成することができる。

boys

インスタンスへのアクセス

先に述べた通り、英語ではインスタンスにユーザが名前をつけることができない。一方、クラスは自分からどんなインスタンスが作成されたかを記憶している。だから、後になって特定のインスタンスにアクセスする必要が生じたときは、クラス名を使ってこれにアクセスする。

英語では、the に続けてクラス名をタイプすると、すでに存在する、そのクラスに属するインスタンスが得られる。

the dog                 # ENGLISH

同じクラスに属するインスタンスが複数ある場合、the はそれらの中から最後に作成された、または、最後にアクセスがあったインスタンスを呼び出す。

the -s/es は、そのクラスに属するインスタンスをすべて呼び出す。

the boys

同一クラスに属するインスタンスの一部だけを呼び出したいならば、some of the boys のようにするが、ここではその仕組みの紹介は省略する。

ビルトイン・インスタンス

たとえば sun クラスは、一つしかインスタンスを作成することができず、そのインスタンスははじめから用意されている。ユーザは the を使ってこれにアクセスすることができる。a/an を用いてこうしたクラスからインスタンスを作成しようとするとエラーになる。

the sun   # 正しい
a sun     # エラーが出る

暗黙のインスタンス作成

まだ作成されていないインスタンスにアクセスしようとすると、その場で暗黙のうちに新しいインスタンスが作成されることがある。そして、暗黙のうちにインスタンスを作成することが可能な場合には、a/an を使って明示的にインスタンスを作成しようとするとエラーになる。

暗黙のインスタンス作成が行われるのは、
(1) そのインスタンスが、すでに作成されている別のクラスのインスタンスへと強く関連づけられている場合。（関連インスタンス）
(2) そのクラスに属するインスタンスの見本と言える、クラス属性だけを持つインスタンスを作る場合。（典型インスタンス）
である。

関連インスタンス

I got a racoon. I like the rascal ....
 # 注 racoon は「アライグマ」クラス、rascal は「ならず者」クラス

the rascal は、rascal クラスのインスタンスを呼び出すことにより、暗黙のうちにこれを作成している。the rascal によって暗黙のうちに作ったインスタンスは、a racoon によって作成されたインスタンスと強く関連している。この「関連性」は文法レベルではなく、意味レベルで判断される。（英語は、意味レベルの解析の手伝いなくして、文法的な解析をすることが不可能な超高級言語である。）ここで、the racoon と the rascal は、文法レベルでは別のオブジェクトである。それが現実世界で同一の対象に対応しているかどうかというのは、意味レベルおける問題である。

関連インスタンスとしてしかインスタンスを作成できない場合

関連インスタンスとして暗黙のうちに生成するのがインスタンスを生成する唯一の方法であるようなクラスがある。こうしたクラスは、a/an によるインスタンス作成時に必要とされる属性を持っていない（何が必要とされる属性であるかは意味レベルで判断される）。このため、他のクラスのインスタンスに対する関連インスタンスとしてしか、インスタンスを作成することができないのである。

the water from this tank

こうしたクラスでは、次に述べる典型インスタンスを作成することはできないので、代わりにクラスそのもの（後述）を用いる。

類例 Late on October 10, the typhoon ... the central pressure dropped by 92 mbar.（http://en.wikipedia.org/wiki/Typhoon_Tip）

典型インスタンス

The lion is a strong animal. 

これは、lion クラスの典型インスタンスを作成し、これを返している。the lion が典型インスタンスを作成するか、すでに作成された通常のインスタンスを呼び出すかは、意味レベルで決定される。

なお、is の後に典型インスタンスを使い The lion is the strong animal. とするとエラーが出る。典型インスタンス the animal には strong という属性をセットできないからである。The tanuki is the mujina. ならエラーが出ない。

類例
The pen is mightier than the sword.
The lion is one of the four big cats... (from Wikipedia)

インスタンスを名前と結びつける

元来英語にはオブジェクトを名前と結びつける手段が用意されていない。しかし、たいがいの実装でこの制限を回避するための拡張がなされている。この拡張にはさまざまあるので、ここですべてを紹介することはできない。

たとえば、名前が特定のインスタンスをさし示すようにするために、

I met a boy. The boy's name is Taro. One day, Taro was playing ....

のようにする拡張が一般的である。ここでは、a で作成された boy クラスのインスタンスを、いったん the によって呼び出し、Taro という名前がそれを指し示すようにしている。以後、このインスタンスは Taro という名前で呼び出すことができるようになる。なお、名前の衝突を避けるために、ユーザがつけた名前は大文字ではじめるのが習慣になっている。

クラスそのもの

クラスそのものもオブジェクトであり、インスタンスが使われるような場所に使うことがある。クラスそのものにアクセスするには、単純にクラス名を使えばよい。典型インスタンスを作ることができない場合、クラスそのものが用いられる。

Water is a chemical substance... (Wikipedia "Water")

まとめ

——目次——

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