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五千円をせしめられたること
災難は気分が優れないときにやってくるものだ。今日は朝から理由もなく憂鬱だった。それでも、なんとか仕事にかかろうとしているとチャイムが鳴った(私は自宅が仕事場である)。この前チャイムを無視したら、ケーブルテレビの工事に来たやつで、その後めんどうなことになった。仕方なく玄関に出た。そして、しまったと思った。
募金をせしめに来た奴らであった。家庭にまわってくるこうした奴らはたいがいインチキなので、相手にしないことにしている。家庭にまわってくる奴には金は出さんのだと告げる。たいていはこれで引き下がるものだ。と、たかをくくったのが悪かった。
敵は速やかに反撃に出た。活動状況を報告したニューズレターだの、誰が発行したのかわからない身分証明書だのをすばやく取り出す。最後に、自分と一緒に来た色つやのいい黒人を示して、彼はアフリカにあるどことかの国から来たのだと言う。機先を制されたとはこのことである。それっぽっちの資料で詐欺かどうかを判断することはできない。詐欺でないという仮説を棄却できないに過ぎない(詐欺であると積極的に証明できないだけだ)。しかし、気分がすぐれないこともあって、私はあきらめの心境になった。
どうすりゃいいんだ、と私は言った。女は、どことかの国のコーヒー豆を買えと言う。コーヒー豆なんぞいらん、金なら寄付しようと言った。財布を見た。私は千円くらいで追っ払おうと思っていたのであるが、一万円札と五千円札しかない。こうなりゃ釣りをもらおうと思ったのが甘かった。細かいのがないのだが、といって五千円を出すと、奴らは大事に使いますと言ってひったくり、そそくさと去っていった。(9/19 1999)