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熊田パン
福島県は須賀川市に、パンならねどパンと名付けられたるものあり。これ を、熊田パンという。熊田とは人名なりや地名なりや、乃公は浅学にして知ら ざるなり。本日これを食する機会ありたれば、この不思議なる食物を紹介せん。
熊田パンはコロッケほどの大きさのものにて、形もコロッケに似たり。色 は白くして、白カビの全面に厚く生えたる如きなれど、これは砂糖なり。この 砂糖の層は厚く三から五ミリにも達するなり。砂糖の層の下には、褐色の数ミ リの層ありて、これは「東京名物ひよこ」の皮の如き或はロバ製菓製「たぬき」 の皮の如きものにて、色のみこれらより褐色深きものなり。その皮の中は漉餡 なり。
これを食する人必ずや砂糖の層に恐れをなすべし。幼き頃よりこの熊田パ ンを食せるある人、まず砂糖の層を剥してから食するを常とするなり。この部 分、丁度餡ドーナツの砂糖のようにて、脂によりて、剥落をせずに層をなせる なり。されば、この部分の味も餡ドーナツの砂糖が如き味なり。
しかれども、甘さのほとんどは、この砂糖の層によるものにて、中の餡は やや塩味強き、黒砂糖の薄味なり。砂糖と餡の中間層たる皮は、やはり「東京 名物ひよこ」の皮の如き或はロバ製菓製「たぬき」の皮の如き味なり。(Fri Jan 2000)