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一度やってみたきこと
一度やってみたいことがある。部屋から一歩も出ないで24時間過ごすことである。もちろん、そんなことができる部屋は、どんな家にも一部屋しかない。すなわち便所である。
たいがいの近代的な住宅の便所には、コンセントがあるものだし、水洗式であれば、水も確保できる。あとは、食べ物とひまつぶしのためのもの持ち込めばよろしい。食べ物はせっかくだから、カロリーメイトくらいにしておくのがおつなものだろう。
計算してみると、カロリーメイト二箱で一食分程度のエネルギーを得ることができる。
テレビを持ち込んだりパソコンを持ち込んだりするということも、もちろん可能ではある。無線LANも使えるかもしれない。しかし、ここは本数冊というのが、粋というものだ。読むものがなくて、同じものを何度も読むようであれば、いっそう閉塞感が出てくるし、この企画をじゅうぶん味わえるというわけだ。
電話は考えものだ。幸い私は携帯電話というものを持っていないので、もし持ち込むならば電話の子機になる。コンセントがあれば充電だって可能だ。だが、まあこれも必要ないといえば、必要ない。企画を拡大して、一週間過ごすということにしたときには持ち込むことにしよう。そうなると、便所を事務所にして仕事をするというすごい企画になるだろう。
風呂はもちろん我慢するしかない。もっとも、風呂と便所がいっしょになっているタイプの部屋ならばそれも可能であるかもしれない。その場合は、持ち込んだ本や食料が濡れないように細心の注意が必要となろう。
意外に難しそうなのが換気である。窓のある便所というのは、最近めっきり少なくなってしまった。換気扇がついているだけだ。換気扇のスイッチが便所の中にあるならば、悪くない。しかし、扉の外についていたらどうする? 換気扇をずっとつけっ放しにしておくか、ずっと使わないかの選択を迫られる。果たして健康に呼吸し続けられるものかどうか。これは、ちょっと見当がつかない。そのうち計算をしてみることにしよう。
照明についても、扉の外にスイッチがあると面倒だ。だが、こちらのほうは電球をゆるめれば消灯できるので、換気扇よりは話が簡単だ。コンセントから読書用のライトの電源を得ることもできるしね。
などと、考えてはみたものの、家族がいるとそんなことはできぬのである。一人暮しをしている時分にやっておけばよかったと思うことのひとつである。