HOME > 語学 > 日本語 > 草書の骨格 > 二十九日目

二十九日目

院、飲、運、泳、游、幸、沢、駅、央

院

「元」参照。

飲

扁は「食」、ツクリは「欲」参照

運

下図は王羲之を真似たもの。

水色に塗った画が、活字のどこに相当するかが気になった。

晋の時代の字に、下図のようなものがあり、

王羲之自身も「軍」を下のように書いているので、これらを参考に対応する画を判断した。

では、おふざけで楷書に翻訳。

泳

「永」参照。上の図で「さんずい」をいくらか行書的に書いているが、ただの一本棒になる場合も多いし、とにかくそんな部分のバリエーションは本質的なところではない。

ちなみに、オヨグには「泳」と「游」がある。「泳」は「水中を潜行しながら泳ぐ」（「漢辞海」三省堂）ことであり、「游」は「水面を浮くようにして游ぐ」（同前）である。その意味で、遊泳禁止は游泳禁止のほうがいいね。そして、犯人は泳がせたらマズイ。游がせないといけない。

ついでだから、次に「游」を見る。

游

上図は宋の蘇軾を真似たもの。「オ」に見える部分の最終画は、下から上にハネ上げているようだ。

漢の時代の字に次のようなものがある。おなじみの「方」の形が見える。

次は、唐の時代の楷書。

「方」=「オ？」については、「方」も参照。

幸

「駅」を習おうと思うと、「駅」は「驛」だから、「幸」を習わないといけない。

次は、漢の時代の「幸」。

おもしろいことに、次も漢の時代の「幸」。

これが前の形の省略なのかどうかはわからないが、仮にそうだとしても、どれがどう省略されたのかわからない。センスとしては、まさに略字って感じだ。ところが、「幸」の草書は、この形を引きついでいく。次図は、東晋の王羲之。

王羲之が取り上げたあたりで、略字から昇格したのかどうかわからないが、その後も草書はこのタイプでいく。下図は隋の智永。便覧のたぐいによく載っている形に近い。

この形が楷書にも取り入れられていたら、幸子サンや幸恵サンはサインが楽だったのだが、楷書はこのタイプにはならなかった。

唐の時代の楷書で、次図は欧陽詢。「羊」の形がある。

唐の虞世南。「羊」が一画減って、われわれに馴染み深い形になっている。

沢

駅は驛なわけだが、これは書道字典に用例が少ない。そこで、沢（澤）を見て参考にする。

次は、漢の時代の「澤」。羊の形がある。

次は、晋の時代の「澤」。「幸」参照。

上の字は、ちょっと素朴すぎて我々が現在書くのには適さないかもしれないが、字体について教えてくれる。この図の「幸」の部分の筆順はちょっとわからない。

次は、唐の懐素。「幸」参照。

気になるところは、草書で「幸」の部分のどこがホネで、どこがたんなる筆を運んだ跡かということである。「幸」の草書体の一画目（横画だよ）が左から右に書かれることを考えて、上図右でオレンジ色に塗る場所を判断した。

おふざけで、この草書を楷書風に翻訳してみると……

なんと、新字体の「沢」に見えるじゃないか。（じつは見えるように書いたのだけど）

もっとも、[11]には、「沢（澤）・訳（譯）・釈（釋）・駅（驛）などは、中国には見かけない。「●（澤のツクリ）」を「尺」に略したわけは、古記録には「講釋」を「講尺」と書いているものがあるから、それに「●（釋の「へん」）」をつけて「釈」とし、それが、すべての「●（澤のツクリ）」のついた略字に応用されたもののようである」（p.92）とある。

駅

駅は驛である。

上図は草書韻会の字を参考にした。「馬へん」の形は、「馬」参照。また、ツクリは「幸」参照。また「沢」参照。

下は、私がふざけて草書の字体を楷書風に書いたもの。

なんと、新字体の「駅」に見える。（もちろん見えるように書いたのだけどね）

央

上図は草書韻會を参考にしたもの。オレンジの画と緑の画が別々になっているのは、下図（書道字典に北魏の字とあったもの参考）とは矛盾しない。

もっとも、唐の時代に下図の形が書かれているわけで、

[1] にあるような形（下図のふたつ）は、これと整合する。

<前 次>

——目次——

HOME
├雑文
├写真
├壁紙
├馬鹿
├読書
├語学
│├英語
│└日本語
├電算
├地理
│└白地図
└ブログ